スペインに根付いていく和の道

El Ikebana se aprecia en españa

貴志 栄子さん
生け花・茶道師範/「盆栽気道」講師


心理学修士。生け花未生流/茶道裏千家の師範であり、スペイン生け花協会の創始者の1人。1991年からスペイン各地において生け花の展覧会、茶道や琴のデモンストレーション、伝統文化に関わる講習会などを行っている。住まいがあるマドリードでは『盆栽気道』で生け花・書道・茶道・着付などの教室を主宰。長年に渡り日本の伝統文化の普及に貢献してきたことが称えられ、2016年外務大臣表彰を受賞した。

今こそ注目される、生け花の真髄

日本では近年、ビジネスリーダーたちを対象とした生け花展が話題を呼び、有名企業の社長たちが生け花を習いはじめているとか。直感力、判断力、創造性、俯瞰の眼など、ビジネスに必要な資質が育まれ、物事を立体的に捉えられるようになることから注目されているのだといいます。時代や環境が変わっても、人の精神と文化の核に、生け花は存在しているんですね。

スペインでもまた、生け花への関心は広まっています。


日本とは違うスペインならではの和の楽しみ方

「スペインには日本文化に詳しい人が多いんですよ。すでに見る目が養われています。日本のことはあまりわかっていないだろう、という安易な気持ちで何かを提供すると、失敗すると思いますよ」と語るのは、生け花・茶道・書道・着付・琴などをスペインで伝えいる貴志栄子さん。約30年、日本の伝統文化の普及に尽力し続け、多くの反響とファンを集めてきた方のひとことには、深みと温かみがありました。

マドリードを拠点に生け花をはじめとする文化教室を開いている貴志さんに、まずは講師という立場から見たスペインの人たちについて伺ってみました。

「指導を受けることに対する姿勢というのは、日本人とは少し違いますね。先生とも友達感覚で接しますから。素直に従わずに〝いや、私はこっちのほうが好きだから〟と言ったりしてね。個性も自尊心も強いですし。それに、日本の生徒さんは先生が手直ししてくれるのを静かに待っていますが、こちらでは待たずに〝先生、見てみて!〟って。よくしゃべりますね(笑)。でも、明るくて、楽しいんですよ。 気軽に話しかけてくれるのは嬉しいことです。〝おしゃべりをするな〟と指導する先生もいるでしょうけれど、私は、それでもいいと思っています。自分を出していくことは上達にも繋がりますから」。

日本とは異なるアイデンティティを持つ生徒さんに向けて、貴志さんは指導の仕方も少し変えているそうです。

「気まぐれで習いはじめる人もいますし、すぐに習得できて自分が先生にもなれると思って来る人もいます。精神性を深めるためではなく、経済的に成功することを目的にしている人もいます。そんな人たちに私は、なぜお花を活けるのか? どうしてそうするのか? ということを教えていきます。最初はわからなくても、時間をかければ徐々にそれがスペインの人たちもわかってくるようになるんですよ。単にキレイなお花を活けるだけではないのだという、哲学的なことも。それがわからなくて途中で辞めていく人もいます。わからなくても楽しいから続けている人もいます。それぞれで向き合い方が違うので、私は生徒さんの特徴を見て、それぞれに合った指導をしています。地域によっても違うんですよ。ビルバオは日本文化に対する意識が高くて精神面の理解が早いですね。北と南でも場所によって人の反応は全然違います」

個性に合わせたコミュニケーションをとっていくという貴志さん。日本の伝統を守りながら、いかに柔軟でいられるかというのも、異文化の共存には大切なことのようです。


広い入口と、深い奥行き

生け花未生流師範/茶道裏千家の師範というプロフィールからは、厳格な女性をイメージする方も中にはいるかもしれません。しかし、実際の貴志さんはとても柔らかでオープンな方です。初対面でもすぐに緊張を溶かしてくれるような愛情深い接し方と優しさが、印象的でした。お話し上手なところは、スペイン生活が長いゆえでしょうか、または大阪出身ということもあるのでしょうか。

貴志さんの柔軟な一面が垣間見れる、こんなエピソードも…。

「マンガ関係のイベントで日本文化を紹介してくれないかと言われて、初めて生け花の展示会をしたんです。最初はこわごわ、どんな雰囲気なんだろうと思っていたんですけど、みんな平和主義というか、いい子たちなんですよ。子供の趣味を親も応援していて。その会場で、若い人たちが黒い服を着ていたんですよね。ゴシックファッションっていうの? それで、私たちおばちゃんたちは〝こういう時は黒い服を着ていかなちゃいけないのかしら〟と考えて、次の日はみんなで黒い服を着ていきましてね(笑)。若い子たちとも仲良くなりましたよ」

 

生け花のほかもに書道、茶道、着付、琴の教室や、折り紙、切り絵、日本食の講習会なども貴志さんは行っています。西和太鼓にも取り組み、日本で活躍するプロを招いてワークショップも開いています。スペインにおいて日本の伝統文化に関わる分野をたどっていけば、どんな入口から進んでもいつか貴志さんに行き着くだろう、というほどの多彩なご活躍。
日本スペイン外交関係樹立150 周年を迎える2018年には、規模の大きなイベントも開催される予定だとか。

 

日本の伝統文化は、貴志さんの活躍によって着実にスペイン人たちの心に届き、根付いていっています。
美として、たしなみとして、道として…。

  • Information

    BONSAIKIDO
    Escuela de Bonsái y Artes Zen
    盆栽気道

    住所: Paseo de la Castellana, 100 bajo izda.
    28046 Madrid
    電話: (+34) 911 399 146
    http://www.bonsaikido.com

    マドリードの中心、Nuevos ministerios駅から徒歩5分の場所に畳の部屋と和の庭を備える和空間があります。スペインで大人気の盆栽教室が開かれ、和の心に寄り添える『盆栽気道』。入口には貴志さんの書が記された表示が。ここで貴志さんは、生け花をはじめとする文化教室や講習会を行っています。